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医療過誤について

更新日:2024.06.18

医療コンサルティング(事務長代行)でご契約のクライントで、職員向けに「医療過誤」についてというテーマで会議を開催した時に作成したレジュメを掲載します。

「医療過誤について」

「医療過誤」とは、人為的ミスを原因として、医療従事者が注意を払い対策を講じていれば防ぐことができたケースを言います。具体的には医師の診察ミス、手術ミス、診断ミス、看護師や医療スタッフなどの連携ミスなどが「医療過誤」に当たります。

「医療過誤」となる可能性の事案が発生した場合は診療録等の記載の有無が重要になります。診療録等は、医師にとって患者(被害者)の症状の把握と適切な診療のための基礎資料として必要不可欠なものであることや、医師法24により作成が法的に義務付けられていること等から、一般的にその記載内容は真実性が担保されていると考えられています。

そのため、訴訟になった場合では、診療録等の記載内容は事実に即した記載であると認められるのが原則となり、特段の事情がある場合に限り、例外的に診療録等の記載内容が事実として扱われないこともあります。

医療訴訟の中では、診療経過などの事実関係については、基本的に診療録等に基づいて確定されることとなり、診療録等に反する事実関係の主張は、患者(被害者)、医療機関ともに原則として認められないことになります。

例えば、医療機関が「診療録等の記載は誤記だ」として診療録等の記載と異なる事実関係の主張をしたケースでも、諸々の事情を考慮したうえで、診療録等の記載に反する医療機関の主張が排斥されています。

もっとも診療録等に記載がない事実関係の有無が訴訟で争われることも珍しくなく、このような事実については診療録等に記載がなく、客観的証拠の裏付けがないため立証は相対的に困難となりますが、諸事情を総合的に考慮して判断されることになります。

「医療過誤」は起こらないに越したことはありませんが、診療や手術などが人の手で行われる以上、人為的なミスをゼロにすることはできません。日本の医療は世界最高水準ですが、それでも「医療過誤」は起こりうるものです。

重要な事は、「医療過誤」が起きた場合にどのような対処をすればよいかを知っておくことです。「医療過誤」が認められた場合、その医療機関は基本的に「民事責任」「刑事責任」を負うことになります。

①民事責任:医療過誤が認められる場合、患者(被害者)やその家族・遺族は、医療機関に対して損害賠償請求を行うことが出来ます。賠償責任の根拠となるのが、不法行為責任(民法709条)あるいは債務不履行責任(民法415条)の2つです。患者(被害者)側と医療機関側の示談交渉や、民事訴訟によって賠償額を決めます。

②刑事責任:医療過誤が業務上過失致死傷罪(刑法211条1項)に該当する場合は、医療機関は刑事責任を負います。この場合は、警察や検察といった機関が捜査を行い、起訴するかどうかを検討します。刑事裁判で有罪となった場合は、刑罰が科されることになります。

「医療事故」と「医療過誤」との違いは、医療従事者による人為的なミスがあったかどうかです。人為的ミスがなく、医療の現場で起きた事故(例えば患者側が廊下で転んでケガをする等)はすべて医療事故になりますが、人為的なミスがあれば「医療過誤」となります。

もし医療訴訟となった場合、医療機関側に責任があるかどうかは、以下の項目に当てはまるかどうかが争点となるでしょう。しっかりと準備を整えて臨むことが大切です。

診療契約上の注意義務違反

事故との因果関係

患者(被害者)が受けた損

「医療過誤」が起こった場合の医療機関の対応マニュアル

「医療過誤」が起きてしまった場合、患者(被害者)本人またはその家族への速やかな対応が不可欠です。「医療過誤」は人の命をおびやかす可能性もありますから、患者(被害者)本人またはその家族が受けた心の傷を癒すことに繋がるように下記の手段で速やかに行動する必要があります。

1) 謝罪・真摯な対応

患者(被害者)本人またはその家族に対して謝罪することはもちろんですが、問題が解決するまで真摯な対応を心がける必要があります。医療機関側の対応ひとつで、患者(被害者)側の心情が大きく変わることは否定できませんので、患者(被害者)の訴えをじっくり聞くことが大切になります。

2)原因究明を行い再発防止の対策を策定する

発生した「医療過誤」の事案につき医師、看護師も交えて事実確認を行います。結果、医療機関側に責任があり、「医療過誤」の可能性が考えられる場合は、対象患者(被害者)の診療録(カルテ)、検査データ等を関係者で再度整理、精査し、原因究明を行うとともに、できる限りでの再発防止策を策定することも必要になります。場合によっては、専門の医療機関へ報告して情報を共有する必要がある場合もあります。

3)医療保障

「医療過誤」によって受けた健康被害の治療は敬遠されがちです。そのため、医療過誤の患者(被害者)の治療を受け入れてくれる医療機関の確保が必要になる場合もあります。もちろん他院での治療費は医療機関側が負担します。

4)診療費返還・慰謝料などの金銭要求・医療裁判

「医療過誤」と判断された場合、謝罪、診療費の返還で済む場合もありますが、患者(被害者)本人またはその家族から慰謝料請求や損害賠償請求をされた場合は、医師賠償責任保険引き受け保険会社に事実報告をし、保険金支払いの対象事案かどうかを確認します。同時に、患者への対応も医療訴訟に強い弁護士に依頼するようにして、要求金額が適正なのか、そもそも支払うべきなのかを弁護士と相談しながら、必要に応じて裁判で判断してもらうことになる可能性もあります。裁判になった場合は、診療・患者(被害者)対応等の経過を診療録(カルテ)、検査データ等の整備も含めて医師、看護師、事務が協力して詳細な書類整備をする必要があります。また、結論が出るまでかなりの時間を要す可能性があります。その間、弁護士と何度もやり取りをする必要がありますので、事務方が窓口となって、医師、看護師と協力しながら必要書類を整備していくことになります。

5) 裁判外紛争解決システム(ADR)の利用

「医療過誤」と判断された場合でも事案によっては、「裁判外紛争解決システム(ADR)」を利用できる場合もあります。「裁判外紛争解決システム(ADR)」とは、裁判に頼らず双方の話し合いで解決を目指すためのものです。患者(被害者)側が医療機関側に謝罪を求めている等の場合は、裁判よりもこのシステムを利用した方が費用も少なく、良い結果に繋がるケースもあります。

「医療過誤」の具体例

 下記に「医療過誤」の具体例を列記します。各項目に対して「医療過誤」が限りなく起こらないように、防止策やチェックシステム等を定期的に議論していく必要があります。

1) 処方箋の(入力)ミス

注:患者に処方箋が渡るまでの薬局も含めたチェック体制が重要(2重チェック等の体制)

2) 注射のトラブル(針刺し等)

注:職員の針刺しの場合、原則は労災ですが、書類作成の煩雑さや労災給付後の労働局の労働環境のチェックに注意が必要

3) (外科的)処置のミス

対応:上記マニュアル1)~3)

4) 診断結果の見落とし(検査等)

  対応:上記マニュアル1)~3)(場合によっては4)、5)も)

5) 医療従事者(医師、看護師等)間での連絡ミスによる患者の状態悪化

対応:上記マニュアル1)~5)

6) 医療的対応の遅れによる患者の状態悪化・死亡

対応:上記マニュアル1)~5)

医療過誤防止の対策

「医療過誤」は本来あってはならないものです。大きな事故が起こる前に、医療機関全体で防止策を講じることが非常に大切です。

1)ヒヤリ・ハットの報告徹底と医療機関内での定期的分析・共有

誰でもミスが起きた時、上司への報告を躊躇してしまいますが、人の命を預かる仕事ですから、大きな事故を抑止するためにもヒヤリ・ハットが起きたら報告を怠らないように徹底します。ヒヤリ・ハットとは、事故が発生する前にミスや間違いに気づくことです。このヒヤリ・ハットを定期的に分析して医療機関内で共有することで「医療過誤」などの大きな事故防止に繋がります。

2)免許で認められた範囲の業務を遂行する

医療行為は常に危険がとなり合わせにあることから、事故を防ぐために免許制度が採用されています。そのため、医師は医師免許の範囲内で業務を行い、看護師や薬剤師もそれぞれ免許に定められた範囲の業務を行うことで「医療過誤」の防止になります。

3)医療従事者の連携強化(チーム医療の徹底)

医療は複雑なだけでなく高度化しているため、医療現場では、1つの治療を医師一人で行うのではなくチームで動いています。複数人で動くことにより、お互いの知識・情報を共有し合うとともに行動を監視できるメリットが得られます。

4)インフォームド・コンセントを徹底する。

インフォームド・コンセントとは、患者やその家族が医師から十分な説明を受けた上で、医療行為を行うことに同意するというものです。医師が一方的に医療行為を行うのではなく、しっかりと同意を得た上で進めていくことも「医療過誤」の防止に繋がります。

5)適切な労働環境の維持(過重労働を無くす環境構築)

診療体制を担う医師、看護師等の医療従事者が過重労働にならないように、体調管理しやすい職場環境を作って、少しでも「医療過誤」の防止に繋げていく体制も必要になります。

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